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今年の日本糖尿病学会から

2003.7.14


 今年の日本糖尿病学会は富山医科薬科大学(富山県)の小林 正教授が主宰されました。「再生医療から予防、地域医療まで」をテーマに5月22-24日の3日間盛大に行われました。

 再生医療とはほぼ再生医学と再生治療を指しています。何を再生するかとなると、個体、組織、細胞も死に至ったものを再生することは出来ません。治らない糖尿病を直すには1) 膵B細胞 2)膵分化細胞 3)インスリン分泌細胞が望まれます。膵B細胞の移植は日本の臓器提供者の少ない国では非常にむずかしい治療となります。さらに拒絶反応を抑えるために免疫抑制剤を継続して服用していかねばなりません。また臓器提供者二人分の膵臓が患者一人分にしか供給されないと言う収量の悪い問題が残っています。2002年厚生労働省から膵B細胞移植の臨床実施が許可されていますが、いまのところヒトに行われたという話は聞かれていません。膵分化細胞が再生細胞に当ります。再生医療はまだ再生医学の段階で治療にまで至っていません。

 ヒトの死があるように細胞にも死があります。膵B細胞の死を防止し、細胞の再生増殖を促す物質を見つけたのが東北大学岡本宏先生一派です。もう一つの研究は横浜市立大学谷口先生らが行う膵B細胞の根幹となる膵幹細胞を取り出し盛んに増殖させるやり方です。これは患者の残存膵を用いるもので拒絶反応は起こりません。

 2)ES細胞は胚内部細胞塊由来の細胞で他の細胞への分化が可能な細胞です。これまでに神経、骨、皮膚細胞が作られています。インスリン分泌細胞の分化が可能になりましたが、この細胞を動物実験に用いたときの免疫抑制剤、感染症、発癌が心配されています。

 次の話題は地域医療の底力となって、懇切丁寧に患者さんの療養指導にあたる糖尿病療養指導士の話です。2001年4364名の医療関係者(コメデイカル)が第1回療養指導士認定試験に合格し、2003年で総数8429名となりました。しかし療養指導士の業務に対する保険給付はまだ認められていません。この認定が国家資格となるためには患者さんの療養の質が良くなることを実証しなければなりません。そのためには糖尿病一次、二次、三次予防に活動を拡大し、実績を評価してもらうことが必要となります。

 もう一つの問題は療養指導士が国公立病院、糖尿病専門病院に集中して診療所を働き場とする人が少ないことで討論がありました。指導士の実地研修、知識習得を考えると納得できる現象かと思います。

 最後は「アジアの2型糖尿病診療の現況」というテーマで、6カ国の糖尿病専門医によるシンポジウムがありました。いずれの国も国情を反映して日本ほどのきめ細かな診療体制になっていません。また患者教育も日本ほどに行われていないので血糖コントロールも良くありません。

 来年の学会は東京女子医大 岩本安彦教授が東京で開催します。