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Q.糖尿病になると癌になり易いかA.Yes

  2006.11.11

 癌は高齢になるに伴い自然発生的に起こるもので、2005年の統計では年間死亡者数325941名のうち癌死亡率が30.3%になると発表されています。つまり亡くなった人の3.3人に1人癌であるという恐ろしい事実があります。その他の死因については第2位は心疾患で16.0%、第3位は脳血管障害12.3%となります。

 それでは糖尿病患者に関してどうかといいますと1990年の調査で死因第1位は癌20.2%、第2位は心疾患19.7%、第3位は脳血管障害12.3%といわれています。一般国民の死亡率と比べ、癌はやや少なく、脳心血管障害などで動脈硬化の進行が早いため血管障害による死亡が多くなります。鳥取県立中央病院の報告によると、最近3年間に糖尿病外来を通院した患者の39名に癌が見つかり、血糖コントロールの悪い人ほど癌になる割合が高くなります。臓器別では1位が胃癌、次に膵臓癌、大腸癌、肝臓癌と続きます。次に本年9月25日に発表された厚生労働省癌研究班が国民10万人を対象とした調査があります。それによると糖尿病の人は一般人と比べ男性は1.27倍、女性は1.21倍癌になり易く、肝癌、膵癌になる割合が高いといわれています。

最近発行された糖尿病専門雑誌に癌の特集がありました。

 膵癌については全国の膵癌で死亡した人の併発疾患で最も多いのは糖尿病で21%から52.2%と報告されています。しかも糖尿病になって1年以内で膵癌を発病する率が高いといいます。その原因としては高インスリン血症、インスリン様成長因子1の分泌増加によるものと考えています。当病院でも今年上半期で膵癌と診断された方が3名います。次に肝癌については脂肪肝殊に非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が誘因とされています。糖尿病患者さんには脂肪肝をもつ人が多く、このことが肝癌に結びつくと考えられています。ただしNASHの診断は肝組織像診断されるもので、脂肪肝=NASHではありません。さらに内臓脂肪、脂肪肝をもつとインスリン抵抗性、高インスリン血症となり癌を誘発する可能性は充分に考えられます。

 昔(30年前)北大癌研究所で肝癌のインスリン作用を研究していた時、肝癌細胞のインスリン受容体の数量と親和性が大きく、インスリン作用が大きく働くことが分かり日本癌学会で発表したことがあります。大腸癌についても糖尿病患者の有病率は一般人と比べ高く、とくに女性においては2倍以上に高いと報告されています(愛知県立癌センター)。喫煙、大量飲酒、運動不足、脂肪分の多い食事、野菜不足が肥満、内臓脂肪増大を引き起こしインスリン抵抗性となり大腸癌になると推定されています。 いづれの癌でもインスリン抵抗性、高インスリン血症が癌細胞の増殖を促していると考えているようです。

 最後に健康食品と癌予防について東北大学の坪野吉孝先生のお話を解説します。有名なものとしてβカロチンとアガリクス茸については有効であるとする単一症例の話はありますが、多人数で調べた大試験では効果はみらでず、むしろ副作用が大きいと述べています。βカロチンについてはフインランドの3万名、アメリカ5万名の試験では効果がなく、むしろ副作用(肺癌、脳血管障害の増加)が出たと報告しています。アガリクス茸はその効果判定を人間でみたものは少なく、多くが動物実験の成績です。多くの研究報告の結論としては癌の増殖抑制に関する効果はない。むしろ肝臓障害、肺炎を起こす頻度が大きいと述べています。これらの危険性の高いものであることを考えると、日常の食生活を改善する方がより効果があると判断しています。