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インスリン注射を始める時、やめる時

 

2006.3.6

 糖尿病の主たる原因は膵B細胞のインスリン分泌障害(低下)です。従ってインスリンを体内に補充することは理にかなった、極めて自然な治療法といえます。しかしその理想薬が注射で行うと言うことで患者さんは重大視するわけです。その嫌がる理由を調査した最近の報告では @一生打つのは嫌い A針が痛い B面倒 C注射そのものが嫌い D絶望感に陥るの順位でした。しかしこれらの想いは患者さんが勝手に考えていることで5項目すべてに何ら心配なことはないのです。現在インスリン注射している患者さんの何%の人がこのように感じているでしょうか。殆どないと思いますし、いたとしたら医療者側の充分な指導と説明が足りなかったためでしょう。

 いまインスリン注射をしている人の70, 80%は2型糖尿病でこれまでは内服薬で治療をしてきました。しかし、1どうしても血糖コントロールが改善されない、2糖毒性をすみやかに是正する必要がある、3膵B細胞の働きが徐々に低下してきている場合には内服剤にインスリン、または全くインスリン注射で治療します。血糖コントロールの悪い状態が長期間でなければ数カ月のインスリン治療ですみます。日本糖尿病学会では悪い血糖コントロールとはヘモグロビンA1c6.5%以上、空腹時血糖値130mg/dl以上、食後2時間血糖値180mg/dl以上としています。当院ではヘモグロビンA1c8.0%以上、空腹時及び食後血糖値200mg/dl以上が数カ月続く時にインスリン注射導入としています。時にはヘモグロビンA1c8.0%以下でも下げる必要のある高血糖値には部分的にインスリン注射を用います。その他にインスリン注射を始める理由としては著しい高血糖(いつも300mg/dl以上)になった時、重症感染症、外傷、手術受ける時、妊娠時、特殊の薬剤(ステロイドホルモンなど)を用いる時一時的にインスリン注射をおこないます。

 次にインスリン注射はいつやめられるかについてお話します。

 これについては日本糖尿病学会からの明らかな勧告書は出ていません。国内の糖尿病専門医が各自の見解に基づいて述べているのが現状です。

 ここでは当院の考え方をお話します。2型糖尿病は基本的にインスリン依存性ではなく、血糖コントロールが悪いためにインスリン注射を用います。従って、血糖コントロールが良くなればインスリン注射は基本的に必要としません。ただしインスリン注射を中止した後の内服剤の選択によりヘモグロビンA1c6.5%から7.0%以下を維持できるか否かを充分に判断する必要があります。

 インスリン注射を中止するためには次の条件を解決されていなければなりません。

1. インスリン注射量が一日10単位以下になる
2. インスリン減量してもヘモグロビンA1c6.5%以下、少なくも7.0%以下を維持している。
3. 尿中および血中C—ペプチドから判断して膵B細胞の働きが50%以上保たれている
4. 病状および生活様式からインスリン注射を必要としない
5. インスリン注射を中止しても内服剤で治療できる見通しが充分である

 これら5項目に問題がなければ内服剤単剤または併用薬を選択します。

 28日北海道新聞に掲載された3種類の併用薬が特に良いという研究報告はありません。患者さんの病状経過によりいろいろの薬の組み合わせが必要となります。一度の変更でうまくいかない時は再検討で内服剤を決めることはできます。

 アメリカの医療者を対象にした調査で、最も良く効く薬の第1位はインスリンでした。

 僅かのインスリンを一日一回注射することで血糖値が安定しているのならインスリンを選ぶのが賢明です。いづれの内服剤を選んでもインスリンにはなれません。