<戻る

寝不足は血糖値をあげる

  2006.7.7  

受診した時の血糖値はその前の食事の中味に関係していると患者さんは誰もが思うでしょう。しかし血糖値の変化はその時の食事のとり方だけで決まるものではなく、身体の中では血糖の上がるスイッチは沢山あります。食事、感情、病気(肝臓病、甲状腺疾患、がん、感染症)外傷、ステロイド剤、妊娠、疲労そして寝不足などです。ですから朝の外来受診時にいつもより高い血糖値みられた患者さんに対しては医師は前日の食事のとり方、疲労、寝不足の程度を聞くのが一般です。

寝不足は仕事とかパソコン、テレビなど日常生活の延長があって睡眠時間が短くなるもので、体調が悪い時にみられる入眠障害、中途覚醒、熟眠障害、早朝覚醒とは異なります。 寝不足で高血糖になる患者さんは日常診療ではしばしば見受けますが、それを詳細に調べた研究報告は国内の医療機関から発表されていないようです。恐らく厳格に患者さんを寝不足状態にさせて調べることが難しいからではないでしょうか。

このテーマについて海外からの研究報告を2つ見つけました。 1つは19991023日付け英国医学雑誌「ランセット」に掲載されたものです。 この研究は11名の健康男子に一日4時間(深夜1時から5時まで)の睡眠を6日間やってもらい、その後一日12時間の睡眠を6日間した時の血糖値を比べたものです。ブドウ糖注射による高血糖の改善は寝不足の時は熟睡時の時と比べ40%低下しています。

次に朝食後の血糖上昇は寝不足時では熟睡と比べ明らかに高くなります。しかしこの時のインスリン分泌は睡眠時間の短い長いで差がありませんでした。つまりインスリン分泌が悪くて血糖値が高くなったことではありません。それは同時に調べた血糖をあげるホルモンであるコーチゾールの分泌が上昇したためであると説明しています。

もう1つはアメリカ内科学会誌「ア−カイブス オフ インターナル メヂシン」2005年4月25日の記事です。男女1486名にブドウ糖負荷試験をおこない同時に睡眠時間についてアンケート調査をして両者の関係をみたものです。血糖検査成績を睡眠時間5時間以内、6時間以内、78時間、9時間以上の4分類して関係をみています。血糖検査から糖尿病群および糖尿病予備群の頻度を調べました。睡眠時間7〜8時間における発病頻度を1.0として比べると、6時間以下では糖尿病の頻度が1.66倍、予備群1.58倍高くなり、5時間以内では糖尿病2.51倍、予備群1.33倍高くなります。ところが9時間以上の睡眠でも糖尿病予備群の頻度が高くなっています。睡眠時間は短くても長くても血糖値に影響を及ぼすという結論です。

最近の職場業務体制は残業や深夜勤務に携わる人が多くなり、翌日の血糖値が高くなるのも仕方ないですがせめて食後血糖だけでも高くしないように努めましょう。