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糖尿病女性の妊娠と出産

  2007.4.18

 今回は糖尿病患者さんの妊娠についてお話します。

 糖代謝異常のある妊婦は、妊娠前にすでに糖尿病と診断されていた場合(糖尿病合併妊娠)と妊娠中に発症、あるいは初めて発見された耐糖能異常(妊娠糖尿病)に分類されます。妊娠糖尿病はおもに➀妊娠の“催糖尿病作用(糖尿病になりやすくなる作用)”により妊娠中に一過性に発現する軽い耐糖能異常、妊娠前に見逃されていた2型糖尿病、妊娠中に発症した糖尿病などが含まれます。

 妊娠すると胎盤が形成されて、母体・胎盤・胎児がひとつのユニットとなって健常な胎児を発育、成長させるために、ホルモンの分泌や代謝が亢進します。

 では、血糖が高いとどうなるのでしょうか?胎児のエネルギー源は主として母体から胎盤を通って送られてくるブドウ糖です。つまり、母体の血糖が高いと大量のブドウ糖が胎児に送られ、胎児も高血糖となり、高血糖が刺激となって沢山のインスリンを分泌します。インスリンは胎児に対して成長因子となるので巨大児になったり、新生児合併症の原因になります。特に妊娠49週は、胎児の種々の器官の形成が始まり、この時期の高血糖は児の先天異常と強く関係します。また、ブドウ糖の他にもケトン体などが母体から胎児に送られ、血糖コントロールの悪い糖尿病妊婦では、母体から産生されたケトン体が胎児に送られしばしば子宮内胎児死亡を起こします。ですから糖尿病があると妊娠すべきではないという印象を一般に与え、未だにそう信じている人もいるようです。

 しかし、糖尿病があってもコントロールがよければ妊娠は可能で、元気な子を産むことが出来ます。では、どのくらいの血糖コントロールが望ましいかというと、妊娠許可条件というものがあります。

1.血糖コントロール:HbA1c6.0%以下(7.0%以下なら許容)

2.網膜症     :単純網膜症までなら可能

 前増殖網膜症、増殖網膜症は光凝固施行後に許可

3.腎  症     :腎症2期(微量アルブミン尿まで)までが望ましい

とされています。

 これらの条件が整えば、妊娠許可となります。

 ちなみに、経口血糖降下剤は胎盤を通過し、胎児に影響することが報告されており、原則として妊娠希望の糖尿病患者には、経口剤は使わず、血糖コントロールが必要な場合はインスリン注射を使います。(いつ妊娠が判明するか解らないからです。)

 では晴れて妊娠許可となり、妊娠したとすると、血糖コントロールは正常な人と同じ血糖、すなわち、食前血糖が100mg/dl以下、食後2時間値120mg/dl以下、HbA1c6.0%以下がコントロール目標になります。妊娠中期以降は、多くのインスリンを使わないと血糖が下がらなくなります。妊娠前のインスリン量と比較すると、1型糖尿病妊婦では約1.5倍、2型糖尿病妊婦では約2倍のインスリンが必要となります。

また食事も良好な血糖を保つため、時に、145回の分食(食事を分けて食べること)をする場合もあります。

 このように厳格な血糖コントロールを保つため様々な努力をするわけですが、子供を無事出産したいという母の強い意志でこれまでも多くの糖尿病患者が元気な子供を出産しています。ただ、ひとつ気がかりなのは、出産後の育児の大変さから出産後血糖コントロールが悪化する糖尿病患者が見られることです。出産後も自分の身体を大切にしてもらいたいものです。