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糖尿病は治る病気となりますか

2008.12.10

平成20年の最後の話となりますから、皆さんの夢である糖尿病は治るか治らないかの話をします。実はこの質問の解答は非常に難しいことです。なぜなら昔の人は空を飛びたい、遠方の人と話をしたい、長生きしたいと願っていましたが、それらは実現しています。ですから人間が抱く希望、夢は遠い将来必ず実現すると思います。人間の願望と叡智(英知)は目的達成に限りなく努力していきますから、糖尿病の治る日が来ることは確かです。その時は何時になるかは分かりませんが、実現される過程を早急に進んでいると思います。

糖尿病が治るということは全く薬剤を必要としなくなり正常人となったことか、糖尿病薬剤を必要としないで好きなように食べてもよいが何らかの薬か機器を必要とするかでしょう。後者の場合は条件付きで治ったことで希望はほぼ実現されています。このやり方は膵臓移植、膵島移植、人口膵臓を指しておりこれまでに何度か説明してきました。

それでは糖尿病は本当に治るのだろうかという究極のテーマを考えねばなりません。そのための治療法が今後考え出されるのでしょうが、現在は再生医療のやり方が基本となります。

再生医療とは一般に「人工的に培養した細胞や組織を用いて病気や怪我などで失われた臓器や組織を修復、再生する医療」といわれています。糖尿病の場合を考えますと、患者体内のベータ細胞(B細胞)を再生(回復)させるやり方と、もう一つは新たにベータ細胞を作成し体内に移植するやり方です。いま世界で盛んに研究、解明されているのは後者のやり方です。

この分野で画期的な発見をし、世界の研究の先鞭をとったのが京都大学山中伸弥教授でした。2006811日科学誌「セル」に論文を発表し、世界中の研究者から注目されることになりました。ノーベル賞受賞の対象とみなされています。山中教授の研究はマウス(ねずみの一種)の皮膚細胞に4個の遺伝子を入れて、どんどん若返りさせてどんな細胞にも変化できる幹細胞(受精卵細胞のような細胞の起源となるもの)を作りました。この幹細胞は人工多能性幹細胞=万能細胞と命名され、一般にはiPS細胞といっています。この極めて未熟な細胞は遺伝子操作で神経、筋肉、脳などどのような細胞にも変身できます。勿論膵臓ベータ細胞、網膜細胞にもなります。

20071120日山中教授は35才の白人女性の皮膚細胞を用いてヒトiPS細胞作成に世界で始めて成功しました。このことはどのような意味があるかというと、この女性が病気になった時はこの人のiPS細胞を使って病気である臓器を治すことができます。

糖尿病患者さんから皮膚細胞をとってiPS細胞を作りベータ細胞に育てて患者さんの体内に戻しますから拒絶反応の心配がありません。また、患者の皮膚、毛髪からiPs細胞を作るので人体の部分切除の心配もありません。

先日(11月7日朝日新聞)のニュースに米国ハワードヒュウーズ医学研究所でヒト皮膚細胞からiPS細胞を作り、それをベータ細胞に分化させてインスリン産生が可能になったと報告されました。また8月28日付け朝日新聞にはマウスの膵外分泌細胞(消化酵素膵液をつくる細胞)をベータ細胞(膵内分泌細胞)に再生して血糖値の下がることをみとどけました。

来年はこれらの研究がどのように発展するか楽しみです。