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糖尿病専門医が考えている
最近のインスリン治療のすすめ方

 

 2010.7.25

糖尿病になる原因は膵臓B細胞のインスリン分泌能力の低下とインスリン抵抗性から起こる高血糖であるとすると、糖尿病治療で最も好ましい治療はインスリン治療と言うことになります。しかし一般の人も糖尿病の人達もインスリン治療は重症の患者さんにするものであるとか、針が痛いからとか、やり方が面倒だからと注射を嫌がっています。

今の注射器は痛みはなく、操作が簡単となり子供からお年寄りまで誰でもやっています。まして糖尿病が重いから注射しているという考えはとんでもない話です。プロ野球の選手、ラグビーの選手、お相撲さんなどインスリン治療して活躍している人達が沢山います。

数種類の内服剤でヘモグロビンA1c(HbA1c)が7.5% 以上が続いているより、インスリン治療で6.5%以下にしているほうが合併症の予防に極めて良いと言うことは誰でも分っていることです。インスリン製剤の開発は国際的に目覚ましい発展があり、異なる作用を持ったアナログインスリンが数種類発売されました。

全国の糖尿病専門医はそれらをいつから、いかに活用するかを考えています。できるだけ早い時期からインスリン治療をはじめると効果的にHbA1cを下がり、それを長期的に維持できるという考え方は統一されています。注射するタイミングをはずし数年後に注射することになった時には一日1回の注射では用が足りず一日2回、3回注射になることも考えられます。時期にかなったインスリン注射は一日1回注射で済むし、数カ月の注射で内服剤に戻れます。大事なことはインスリン注射を始めるタイミングを逃さないことです。

今、日本の糖尿病専門医が考えている糖尿病患者のインスリン治療開始時期はHbA1c7.5%以上が持続している時です。当病院では8.0%になった時に膵臓B細胞のインスリン分泌能力を調べるために数日間の検査入院を奨めています。その検査結果をみてインスリン注射のやり方を決めます。その要領は次のようになっています。

第一段階――――インスリン分泌促進薬+基礎インスリン注射 
(BOT法=basal supported oral therapyと言います)HbA1c7.5%前後でそれ程悪くなっていない時期に睡眠前に少量の時効型インスリン(24時間作用型)を少量(4〜6単 
位)注射します。このやり方の目的は朝食前血糖値を下げることを目標とし、日中の食前後の血糖値も下げようとするものです。インスリン治療の最も初期段階のやり方です。睡眠中の低血糖はこの少量インスリンでは起こりません。その理由は時効型のインスリンは速効性がなく肝臓からの新しいインスリン生成を抑える働きをしています。

第二段階――――BOT法で治療しても日中のいずれかの食後高血糖が改善されない時にはその食時前に超速効型インスリンを少量追加するやり方でBOT Plus 療法と言います。朝食後高血糖に追加することが多いのですが夕食後高血糖ある場合には夕食前にこのインスリンを同様に追加します。このように朝食後、夕食後の高血糖を下げること 
によりHbA1cを改善させます。

第三段階――――BOT Plus療法でもHbA1cが改善されない時には就寝時の持効型インスリンを徐々に上げていきます。患者さんによっては10単位以上になることもあります。

第四段階――――BOT法に朝、昼、夕の食前に超速効型インスリンを追加する一日4回注射の強化療法がありますこの方法を用いると大抵の血糖値、HbA1cは安定します。もし改善がみられなければインスリン抵抗性が大きいのかもしれません。内服剤を併用することもあります。