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糖尿病に多い隠れ心筋梗塞(無痛性心筋梗塞)とは

 

糖尿病合併症の中で動脈硬化は、全身の血管に起こり心臓、脳、下肢の血管閉塞を引き起します。心筋梗塞は、主に動脈硬化によって、心臓のまわりを通っている冠動脈が詰まることが原因で起こります。心筋梗塞は突然起こることが多く、発作が起きやすい時間帯として、起床後の午前810時頃、1日の疲れがたまった2022時頃が知られています。特に起床後の時間帯は体を活発に動かせるよう交感神経が働き、血圧が上がったり、血液が固まりやすくなるため、心筋梗塞が起こりやすくなります。通常、心筋梗塞は激しい痛みを伴いますが、約2割の患者さんでは痛みのないケースが見られます。吐き気がしたり、なんとなくだるいといった症状しかなかったり、人によっては全くの無症状の場合もあり、心筋梗塞と気づかないケースもあります。このような心筋梗塞は無痛性心筋梗塞と呼ばれ、その多くは高齢者や糖尿病で見られます。加齢により知覚神経が衰えたり、糖尿病の合併症で知覚神経が障害されると、心筋梗塞を起こしても痛みを感じられないことがあるのです。

この無痛性心筋梗塞は痛みがないから軽症かというとそうではありません。心筋梗塞は、発作が起きてから治療開始までの時間の長さが予後に大きく影響しますが、無痛性の場合は気づかないうちに心筋梗塞が起こり進行していますので、すでに重症の心不全や不整脈を併発していることも少なくありません。このため通常の心筋梗塞に比べ死亡率が3倍も高いと言われています。無痛性心筋梗塞は胸痛がないので症状から見つけることは難しいですが、心不全や不整脈が重症化する前ぶれとして、冷や汗を伴うめまい、だるざ、顔色不良などが見られることがあります。特に原因のはっきりしない「冷や汗」は無痛性心筋梗塞の可能性もあり注意が必要です。

近年は心筋梗塞に対するカテーテル治療(PCI)が広く行われていますが、PCI治療後の予後調査では糖尿病合併例で心筋梗塞の再発が多いことが報告されています。糖尿病は、高血糖状態が続くため血管に負担をかけやすく、動脈硬化が重症化しやすい(複数の血管病変が認められることが多い)という特徴があります。また境界型といわれる糖尿病以前の時期から動脈硬化が生じるといわれ、予防のためにはできるだけ早期からの治療が重要です。糖尿病が疑われたら、年に一度は心電図などにより心臓の状態を調べてしておくことが大切です。

医師 石井 勝久

   

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