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第62回日本糖尿病学会に参加して 

2019.6.15

  5月23日〜25の3日間にわたって宮城県仙台市で日本糖尿病学会が行われました。

5か所の会場で行われましたが、会場の一つである仙台国際センター前では仙台出身のフィギアスケート選手である羽生結弦さんの等身大以上の大きなパネルが飾られ多くの人が写真を撮っていました。

学会内容としては、最新の薬(インクレチン関連薬やSGLT2阻害薬)や血糖モニターを使った研究、高齢者糖尿病に関する話題、肝硬変や肝臓がんに移行しやすい脂肪性肝炎(NASH)と糖尿病との関連について等非常に多くの発表がありました。

今年の特徴として、開催地が仙台ということもあり「災害時の糖尿病治療」に関するシンポジウムもあったこと。またシンポジウムのなかにはツイートセッションとして聴講者のスマートフォン・PC・タブレットからコメントを投稿して皆で見るといった新しい志向のものもありました。

その中で最近増加している糖尿病腎臓病についてのシンポジウムを聴講したので報告します。

糖尿病性腎臓病(Diabetic kidney disease:  DKD

糖尿病の合併症の一つとして糖尿病性腎症(Diabetic nephropathy DN)があることは皆さんご存知だと思います。DN経過として、高血糖状態でも始めは尿検査にて全く異常が見られませんが(第1期)高血糖が長期間続くと尿に微量アルブミンが出現します(第2期)。徐々にその量が増えて尿蛋白が出現するようになり(第3期)、腎臓機能が低下して腎不全(第4期)となり透析(第5期)となるのが典型的です。しかし最近尿に微量アルブミンや尿蛋白が出現しないのに腎機能が低下している患者さんが増加していることが注目されています。

どうしてそのような尿アルブミンや尿蛋白が出現せずに腎機能が低下していくのかははっきりとした原因は究明されていませんでしたが、腎臓の動脈硬化からおこる腎硬化病変が強く認められる腎硬化症が増加していること。DN治療(特にARB製剤という尿アルブミンや尿タンパクを減らす薬)が徹底されたため尿アルブミンや尿たんぱくが出なくなった状態をみているのではないか等考えられています。

尿アルブミンやタンパクが出ないが腎機能が低下している患者さんの特徴として国内(滋賀医大)の報告では、@比較的血糖管理が良い。A高齢である Bコレステロールや中性脂肪が高い。CDN治療薬(ARB製剤)を内服している。といった特徴があるようで、糖尿病患者さんの約10%は認められると報告していました。

予後については、治療(血糖や脂質、血圧管理)することによって32%進行を防ぐことができ、尿タンパクや尿アルブミンが出ている患者さんと比較して透析になる割合は低く、生命予後も悪くないと報告していました。

治療としては、SGLT-2阻害薬やGLP-1受容体作動薬に腎保護作用があると報告されていましたが、酸化ストレスなどをターゲットとした新たな治療薬も開発中のようです。

私も20数年以上腹部エコー検査にて腎臓を見てきました。

腎臓は上腹部(背中側)に左右2個握りこぶし大の大きさであります。腹部エコーで糖尿病患者さんの腎臓を見てみると高血糖状態が長期間続くと始めは腎臓が少し大きくなる(腎肥大といいます)更に腎臓の血管に硬化が起きて腎硬化所見(腎臓の表面がエコーで凸凹する・腎臓の外側の腎皮質という部分が薄くなる・腎臓が萎縮する)が認められるようになります。

そこで最近気付くのは20年前と比較して腎硬化病変を認める患者さんが非常に増えていること。なかでも尿検査や血液検査にて全く異常がない比較的若い(40代〜50代)患者さんでも腎臓に硬化所見がみられる人が増えています。

なぜこのような腎臓の変化がみられるのかはっきりしませんが、高血糖だけではない生活習慣つまり食事内容の変化(脂肪摂取量↑・タンパク質摂取量↑・塩分摂取量↑)運動不足による肥満や筋力低下・喫煙などが原因・誘因になっていると思われます。

薬の進歩だけに頼らず食事・運動療法をほどほどまじめに行うことが一番大事なのだと感じます。

 

坂井恵子医師

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