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アイヌに糖尿病はあったか、なかったか

2019.9.13

 アイヌは日本人とは異なった独自の生活様式と文化をもっています。ただ文字をもっていないので生活の知恵は口伝承となります。 

食物は農耕より狩猟、漁業からのものが主となり、食生活は現代の和食に似た食べ方をしています。米に相当するものはアワ、ヒエ、キビ、大麦、芋を常食とします。日本人との交易(物々交換)による米も食べていましたが、祝日、儀式の時に限っています。アイヌの食生活は一日2食のアイヌ料理ですが大正時代から一日3食に変わりました。

 食事の基本は主食が「煮込み汁」といい石狩鍋、寄せ鍋のような具が入ります。また副菜は粥食でアワ、ヒエ、キビを使います。和食の配膳とは異なります。獣肉は鹿、熊、兎、キジ、ハト、スズメ。魚類はイルカ、トド、メカジキ、アザラシ、ニシン、タラ、コマイ、カスベが主で、たまに鯨が手に入ることがありました。それらを焼く、煮る、あぶる、ゆでる、灰の中で蒸し焼きにします。保存食としてはくん製、干物にして冬に備えます。 農耕は女性の仕事でヒエ、アワ、コムギ、オオムギが栽培されましたが稲作は成功していません。山菜はアザミ、ギョウジャニンニク、オオバユリ、フキ、ハマナスノ実、キノコを食用としています。 

 調味料は海水、香辛料はギョウジャニンニク、きはだの実とのことでした。 甘味はシラカバ、カエデの樹液、魚油、昆布の粉末、ギョウジャニンニクを味付けとしています。 アイヌの日常生活は男も女も身体を動かさねばならず、一日に20から40km歩いています。 

 病気は伝染病が多く、特に肺結核、脚気、貧血、梅毒、トラコーマ、天然痘も一時大流行しました。古文書には不思議とリュウマチがよく書かれています。 アイヌの生活は村単位の集落で全体の統制が取られていました 更に多信教の信仰があり、神の心を損なわぬようにと躾けられていました。従って勝手気ままがなく、自由奔放性もなく忍耐強い習性が培われていました。 アイヌの病気の訴えは病(やみ)といって独特の訴え方、表現の仕方があったようです。それに応じて生薬を投与し、病状が重くなると祈?をします。家庭の常備薬はサワシバ樹皮(疲労回復)、タチバナ果実(食欲増進)、カラフトニンジン(風邪薬)をその都度用います。 

 道内各地のアイヌ支部長数名に「糖尿病の人の有無」を過去、現在にわたって尋ねましたが、いないと言うことことでした。 また札幌市で創業明治5年の薬局数軒にたずねましたが、糖尿病の漢方薬(いちい、タラの木、連理草、オンコ)をアイヌに売ったことはないとのことでした。 果たしてこのような生活習慣をもったアイヌには糖尿病なかったと言えるのでしょうか。仮に生活習慣に関係のない1型糖尿病がいたとするとインスリン注射はまだない時代ですから数か月で亡くなったでしょう。

医師 佐々木 嵩