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高齢者糖尿病患者さんの危険な低血糖 

2021.3.10

  高齢者糖尿病患者さんの危険な低血糖 低血糖とは一般的に血糖値が70mg/以下となる状態と定義されています。

 血糖が60以下になると自律神経症状の動悸、発汗、蒼白、頻脈、手の震え、空腹感などの症状が出現し血糖50以下では中枢神経症状の頭痛、かすみ目、複視、眠気、作業能力の低下などがみられます。 

患者さんが低血糖を60−70mg/dlの時点で自覚できればすみやかな糖質補給などで対処することによって重症低血糖を防ぐことはできますが、HbA1cが低値であったり、低血糖を繰り返していると上記の症状が現れない無自覚低血糖になる場合があります。 外来で採血した時、看護師に低血糖を指摘されるけれど自分では自覚症状がなかったという経験はありませんか。これが無自覚低血糖です。

高齢の糖尿病患者さんは無自覚低血糖を起こしやすい傾向があります。 

日本の糖尿病患者1000人当たり年間4.1回の低血糖入院が発生しており、その患者の平均年齢は73.4歳(80歳以上が36%)と大半が高齢者でした。その原因として、 

@ 高齢による腎機能障害が起きると経口血糖降下薬(特にSU薬のアマリール・グリミクロン・オイグルコン)が尿からうまく排泄されず体に蓄積されるため。

A 次のような非典型的な低血糖症状:高齢になると上記のような低血糖症状が出にくくなり、「嘔気・転倒する・体がふらふらする・頭がくらくらする・動作がぎこちない・物事の段取りがうまくいかない」などの症状となる場合があり低血糖の対応が遅れる。

 B 急な食事量の低下と低血糖の対応能力が低下:下痢や嘔吐などを起こしたり、体調が悪く食欲が低下したり欠食(食事を抜いてしまう)をした時でも薬は通常通り内服する 

C クスリを間違って内服してしまうことなどがあります。 2型の糖尿病で重症低血糖があると認知症は1.68倍おこしやすく、また低血糖の頻度が増えるほど転倒する頻度が増えます。そこで低血糖予防が大切となります。 

対策として、 

1 低血糖を予測する。:低血糖を引き起こす可能性のある経口血糖降下薬のSU薬(例:オイグルコン・アマリール・グリミクロン)を使用している場合、HbA1c7.0%未満、または空腹時血糖110r/dl未満の場合では低血糖の危険性が高くなるので、特に食事前に低血糖症状があれば主治医に話してください。またHbA1cが高くてもインスリン使用者では低血糖が起こる可能性があります。

 2 持続血糖モニタリング(CGM)・フラッシュグルコースモニタリング(FGM)の活用 上述したように高齢者は低血糖の自覚症状が乏しいため無自覚低血糖を起こしていても本人は自覚できない場合があります。当院で活用しているFGMは上腕に直径約3cmの血糖測定のセンサーを貼り付けるだけで数日間にわたって血糖を測定することができ、無自覚の低血糖を見つけることができます。 

3 柔軟な血糖コントロール目標:「HbA1cが低い方がいい」と考えている高齢患者さんがいますが、低血糖をずーっと防いでいることの方が大事です。自分の目標HbA1cはどのくらいなのか主治医とも話し合うことが必要です。 

4 低血糖に関する注意点を理解する 上述したように高齢者の低血糖の非典型的な症状の理解とその対策ができること。 例えば毎食炭水化物を摂取し、欠食や極端な炭水化物制限をしない事。運動時の低血糖に注意すること。食事量が低下した場合や下痢嘔吐の場合(シックデイといいます)には経口血糖降下薬のSU薬を内服している人は減量・中止したり、またはインスリンを減量する場合もあります。看護師や主治医に相談してください。 

今後は医療者と患者さんだけでなく、家族や介護関連の職種に対しても低血糖の対応含めた糖尿病教育の普及が必要と感じます

 

坂井恵子医師

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