<戻る

 

 

学会報告 〜糖尿病の進歩〜 

2022.3.15

 コロナ禍となっても、医学は着実に進歩しており、2月25-26日「第56回糖尿病の進歩」という学会がWEBにて開催されました。高齢化・中高年の肥満・AIの活用・血糖管理を含めた医療機器の進歩といった話題が多くみられていました。
今回はその中でも「糖尿病と認知症」「糖尿病と癌」について新たな話題を皆さんにお伝えしたいと思います。
糖尿病患者さんが介護が必要な状態となった場合の原因となる疾患の1位が認知症といわれています。
2012年には認知症と診断された人は国内で462万人いましたが、2025年は700万人といわれており65歳以上の5人1人が認知症になると予想されています。
また糖尿病患者さんは非糖尿病の人と比べてアルツハイマー認知症は1.6倍、脳血管認知症は2.2倍増えるといわれています。

糖尿病患者さんに認知症発症率が高い原因として3つのことが原因と考えられています。
@ 脳血管認知症:糖尿病は合併症として全身の血管が詰まりやすいのですが脳血管が詰まることに  よっておこる認知症です。
A アルツハイマー型認知症:インスリン抵抗性(インスリンが過剰分泌されているのに血糖が高い状  況、主に食事療法や運動療法が不十分な肥満の方に多いです)が原因の一つといわれていま  す。
B 糖尿病性認知症:血糖の変動や高血糖が続くことによって起こる代謝障害による認知症。血糖コ  ントロールが不良な人やインスリン治療をしている人、低血糖が多くみられる人がこの糖尿病性認  知症になる割合が多いとの事でした。
  糖尿病患者さんはこの3つのどれかに当てはまる場合が多いため、認知症を発症する頻度が
  高いのです。

次に、認知症の中でも頻度が高く最近新たな治療の可能性があるアルツハイマー型認知症について少しお話します。アルツハイマー型認知症は脳(特に海馬という領域)の萎縮により発症し現在の治療では認知症の進行を遅らせる治療しかありませんでした。
しかし、これからは認知症が発症する前の段階の脳の変化(アミロイドβやタウ蛋白のリン酸化)を画像検査でチェックしこの時点で治療をすることが可能となるようです。
また、余暇時間(趣味)が認知症予防に重要という報告があります。
最近の研究で認知症になっていない人を10年間調査したところ非糖尿病で余暇活動している人を1とすると糖尿病で活動している人は1.9倍、糖尿病で非活動の人は5.6倍の割合で認知症を発症するという結果となりました。
趣味活動やりたくなってきましたね。

最後に、血糖コントロールをすることで認知機能は改善するのかという事ですが、長期的な報告では関連性はないといわれています。
というのも、HbA1cが8%以上であると認知症が進行することはわかっていますが、逆に低血糖でも認知症が増えるので、低血糖が起こらないようにHbA1c8%未満を目指すことが大切となります。そういわれても人それぞれ達成できる目標HbA1cは違いますよね。まずは、自分の目標HbA1cはどのくらいかを主治医と話してみることが大切です。

「糖尿病と癌」
糖尿病患者さんの死因の1位は癌です。
非糖尿病の人と比べて糖尿病患者さんでは癌にかかりやすいという報告があります。
(肝臓癌2.5倍 子宮がん2.0倍 膵臓がん1.8倍 大腸がん1.3倍など)
では、血糖を厳格にコントロールすると癌にかかりにくいのかという調査がありますが、結果は決して厳格な血糖コントロールをすると癌が減るわけでもないようです。
ではなぜ糖尿病患者さんは癌になりやすいのでしょうか
それは、癌の危険因子はである「肥満」・「食事の乱れ」・「運動不足」・「喫煙」・「飲酒」といった項目が糖尿病患者さんに当てはまることが多いためです。
ということは、糖尿病で日々取り組む自己管理が糖尿病だけでなく癌も予防することになります。
最後に糖尿病患者さんが癌を併発するときの危険信号を挙げます。
 @ 意図しない体重減少
 A 貧血の進行
 B 説明できない血糖コントロールの悪化
がん検診も自己管理の一部です。札幌市で行っているがん検診がありますので札幌市のホームページなどで確認してください。

 

坂井恵子医師

[HOME]