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「2023年度糖尿病の進歩」学会参加報告 

2023.3.28

2月に東京にて開催された「糖尿病の進歩」ですが、今回はオンラインにて参加しましたので皆さんに報告します。
学会では新しい治療薬や最新の医療機器について、また高齢化に伴う問題点や解決案などが取り上げられていました。その中で今回は二つの話題を紹介します。

<肥満が内臓に与える悪影響>
最近流行りの糖質制限ですが、米飯を極端に減らし肉や揚げ物にパンと乳製品というパターンの食事が40-60歳代に増えています。健康に気を付けているつもりが、動物性脂肪や油の摂取率が多くなり実は内臓脂肪を増やしている可能性があります。内臓脂肪が多くなることは2つの側面から体に悪影響を与えます。

1. 脂肪毒性
全身に脂肪が蓄積して(=異所性脂肪蓄積)膵臓・肝臓・腎臓・心臓に障害を与えます。膵臓に脂肪がたまることによってインスリンを分泌する膵島に炎症を引き起こしインスリン分泌が低下します。また心臓では心臓の血管(冠動脈)の中膜という部分に脂肪がたまって血管が拡がる事ができなくなります。

2. 低アディポネクチン
内臓脂肪が多くなると脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンという善玉のホルモンが減ります。アディポネクチンが腎臓を保護するメカニズムについても発表されていましたが詳細は省略します。
アディポネクチンが少ないと腎臓の尿細管という部分が障害されてしまいます。糖尿病の合併症である糖尿病性腎症は腎臓の糸球体という部分が障害され
尿中に微量アルブミンやタンパクが漏れ徐々に腎臓の働きが低下するといった経過が典型的ですが、最近尿蛋白やアルブミンが漏れずに腎臓の働きが低下る患者さんが増えてきています。(これを糖尿病性臓病=Diabetic Kidney disease)これは内臓肥満による低アディポネクチンが原因の一つであると報告していました。

細胞の老化に関する様々なメカニズムが少しずつ解明され、また、健康寿命を伸ばすためにはどのような生活をしたらいいのかといった話題も多くありました。
細かなメカニズムは省略しますが、野菜多くとること+動物蛋白と植物蛋白を両方取ること+座っている時間を減らし体をよく動かすことといったごく一般的な結論でした。ただ、メカニズムが解明されてきたことはやはり「進歩」でしょう。

<インスリンを注射しても血糖が下がらない時は皮膚を見てみよう>
インスリンを同じ部位に注射することで起こる皮膚の変化をご存知ですか。
リポハイパートロフィー(脂肪肥大);インスリンの注射部位の皮下脂肪が肥大して柔らかく膨らんで見えますが、意外と患者さん自身は気付かないことがあります。インスリン使用者の38%に認めると報告されていました。(2型糖尿病患者では49%、1型糖尿病患者では34%)
インスリンボール(インスリン由来アミロイドーシス):注射したインスリンがアミロイド蛋白という物質になって皮膚の下に沈着することにより、皮膚の下に少し硬いしこりのようなものができることが多いです。(図1)
いずれも注射したインスリンの吸収を悪くします。
図2はインスリンボールができた皮膚にインスリンを注射した時と正常な皮膚にインスリンを注射した時に血液中のインスリン濃度を示しています。
インスリンボール(腫瘤)がある皮膚に10単位のインスリンを注射してもほとんど吸収されていないことが解ります。
先程お話ししたように患者さん自身は気付かないことがあり、インスリン注射をしている患者さんは年1回スタッフに皮膚を見てもらうといいと思います。また、最近では皮膚エコー検査によって触ってもわからない皮膚変化を発見することができます。当院でも行っていますが、検査に時間がかかる為、入院患者さんに行っています。
予防策として同じ部位にインスリン注射をしないようにするため、当院ではテープを使って目印をつけることを勧めています。

坂井恵子医師

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