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合併症防止には血糖値のここを抑える

 

2014. 5. 19

ヘモグロビンA1c(HbA1c)が糖尿病の細小血管合併症(神経障害・網膜症・腎症)に影響を与えることはよく知られています。

しかし、大血管症(虚血性心疾患・脳血管障害)抑制を目的とした場合、慢性の高血糖を反映するHbA1cに加えて血糖変動が少ないこと、すなわち食後高血糖と低血糖の少ない人のほうが大血管合併症を発症しにくいということがわかってきました。数年前に発表されたADVANC試験やACCORD試験では強化療法群(頻回のインスリン注射によりHbA1cを強力に低下させた群)の総死亡率が22%増加するという結果のでた原因のひとつとして頻回の低血糖があったことがあげられています。

一日の血糖変動を調べる方法として最近わが国でも持続血糖モニター(CGM)が少しずつ普及してきています。

CGM機器は皮下組織に留置したセンサーを用いて間質液中のグルコース濃度を連続して測定します。原理は省略しますが、間質液中のグルコース濃度の測定値と血糖値との間には差を生じるためSMBG(自己血糖測定器)を1日1〜4回程度行い血糖値を入力して補正を行うことが必要とされています。

わが国で2012年に販売を開始したiPro2は10秒ごとに測定を行い5分毎の平均値を1日〜3日間分記録します。

CGMによって今までわからなかった時間帯の高血糖や低血糖といった血糖変動を調べることができますが、すべての糖尿病患者さんに検査を実施することは現実的ではなく、当院でも医師が必要と判断した患者さんの入院検査でCGMを実施しています。

食後高血糖や日中の低血糖が大血管合併症に悪影響を与えていることはわかりましたが、どういった対策をとればいいのでしょうか?

低血糖については次の話題として今回は食後高血糖対策について食事の面からお話します。ポイントは次の5つです。

1 単純糖質(おやつ・果物)の過剰摂取を避けること

2 遅い時間の夕食・夜食を食べ過ぎる習慣を改めること

3 朝食を遅くにしない

4 食物繊維を多く含む食材から食べ始めること

5 炭水化物(糖質)の食べるタイミングを考慮すること        

例えば、単純糖質すなわち食事というよりはおやつといった甘味を多く取らないようにすること。また、順番も大切で野菜を先に食べることにより食後高血糖が改善されると報告されています。

野菜に含まれる食物繊維が糖質の分解、吸収を遅くしてその結果食後血糖値の上昇抑制とインスリン分泌の節約効果につながると考えられています。また十分に噛むことにより食物繊維が細かくなり糖質の拡散の速度がより遅くなることも一因と考えられます。(そう考えると、よく噛むための歯も大切だとわかりますね)

食べる順番も大切ですが次に大切なのは食事の時間です。身体は24時間をひとつのサイクルとして、栄養素の代謝とエネルギー利用を適正に調節しています。

体内のホルモン代謝には日内リズムがあり、朝方から午前中はインスリン拮抗ホルモンといわれる血糖を上昇させるホルモンが多く分泌されるため、インスリンの作用が妨害され朝食後の血糖が上昇しやすいと考えられます。第二にFFA(遊離脂肪酸)の日内変動も関係あります。FFAもインスリンの感受性(効き)を悪くするひとつと考えられていますが、空腹時間が長くなるとまた朝方に多く分泌されるインスリン拮抗ホルモンの働きによりFFAが高く朝食前には一番高値になるために朝食後血糖が高くなりやすいのです。インスリン分泌によりFFAは抑制されるので、早めの朝食をとることで朝食前のFFAを早く低下させインスリン感受性(効き)を高めることができます。

また炭水化物(糖質)はとるタイミングを考え、朝食と昼食はしっかり摂り、就寝するだけの夕食は多く摂らないことを心がけることにより極端な制限をしなくても食後血糖を是正することが期待できます。

     文責 坂井 恵子

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